腰痛は日本人の多くが経験する症状のひとつであり、医療機関への受診理由としても上位に挙げられます。この記事では、「腰痛症」について医学的な観点からわかりやすく解説し、原因、診断方法、治療、そして予防法までを丁寧にご紹介します。

第1章:腰痛症とは何か?

腰痛症とは、腰部(背中の下の部分)に痛みを感じる症状の総称で、特定の明確な疾患名ではありません。日本では国民の約80%が一生に一度は腰痛を経験するとも言われており、非常に一般的な症状です。

腰痛症の定義

医学的には、「腰部に痛みを感じるが、明確な原因疾患が特定されない状態」を腰痛症と呼びます。一方で、原因がはっきりしている腰痛(椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症など)は、特異的腰痛とも呼ばれ、区別されることがあります。

一般的な発症年齢と罹患率

  • 発症年齢:30〜50代がもっとも多く、特に中年以降に増加傾向があります。
  • 男女差:男性に多くみられますが、妊娠や出産、ホルモン変化により女性にも一定数発症します。
  • 職業との関係:長時間のデスクワークや重い荷物を持つ作業など、姿勢や負荷の偏りがリスクになります。

急性腰痛と慢性腰痛の違い

分類特徴
急性腰痛発症から4週間以内ぎっくり腰(急性腰椎捻挫)など
慢性腰痛3ヶ月以上持続精神的ストレスや姿勢習慣が関与することも

第2章:腰痛の主な原因

腰痛の原因は多岐にわたりますが、大きく分けると以下の4つに分類されます。

筋筋膜性腰痛(筋肉・靭帯の問題)

最も一般的なタイプで、筋肉の使い過ぎや姿勢不良、冷えなどによって起こるものです。ストレッチや温熱療法で改善するケースが多いです。

椎間板ヘルニア

背骨の間にある「椎間板」が飛び出して神経を圧迫する病態です。足のしびれや強い痛みを伴うことがあり、MRIでの診断が必要です。

脊柱管狭窄症

加齢などによって脊柱管(神経の通り道)が狭くなる状態です。歩くと足がしびれて休みたくなる「間欠性跛行」が特徴です。

内臓疾患に由来する腰痛

腎臓、膵臓、婦人科系疾患など、腰とは関係なさそうな臓器の異常が関連痛として腰に現れる場合があります。このような腰痛は、姿勢や動作に関係なく持続することが多いです。

第3章:診断の流れ

問診と身体所見の重要性

  • いつから痛いのか
  • どのような動きで痛むのか
  • しびれや発熱などの随伴症状の有無

これらを丁寧に聞くことで、多くの情報が得られます。

画像診断(X線、MRI、CT)

  • X線:骨の変形や骨折の有無を確認
  • MRI:椎間板や神経の状態が詳しくわかる
  • CT:骨の微細な異常の確認に有効

血液検査でわかること

感染症や内臓疾患が疑われる場合には、血液検査で炎症の有無や腎機能などをチェックします。

第4章:腰痛の治療法

保存療法(安静、薬物療法、理学療法)

  • 安静:痛みが強い急性期は、短期間の安静が有効です。
  • 薬物療法:鎮痛剤(NSAIDs)、筋弛緩薬、湿布など。
  • 理学療法:リハビリテーションによって、筋肉や関節の動きを改善します。

神経ブロック療法

痛みの伝達を遮断する方法で、即効性があります。慢性腰痛に対しても有効ですが、根本的な治療ではありません。

手術が必要になるケース

  • 強い神経症状(しびれ、麻痺)
  • 保存療法で改善しない椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症

第5章:予防と日常生活での注意点

正しい姿勢と生活習慣の見直し

  • 長時間同じ姿勢を避ける
  • デスクワーク中は1時間ごとに立ち上がる
  • ベッドや椅子の高さ・硬さも見直す

ストレッチや軽度の運動

ウォーキングや体幹トレーニングが有効。ヨガやピラティスも腰痛予防に効果的です。

再発を防ぐために必要なこと

痛みが治まってもすぐに無理をしないこと。筋肉を柔軟に保ち、腰への負担を軽減する生活を続けることが大切です。

第6章:腰痛と心の関係

ストレスが腰痛に与える影響

ストレスによって筋肉が緊張しやすくなり、血流が悪くなることで痛みを感じやすくなります。

心因性腰痛とは?

明確な身体的異常がないにもかかわらず、心理的ストレスや不安、抑うつ状態などが腰痛として現れることがあります。この場合、カウンセリングや心療内科的なアプローチが有効です。

まとめ

腰痛症は非常に多くの人が経験する症状であり、その原因や治療法は多岐にわたります。正確な診断と適切な対処を行うことで、多くの腰痛は改善が可能です。日常生活の中で予防に努め、必要に応じて医療機関を受診しましょう。

朋クリニック